沼津ひもの

 

  <講 釈 (こうしゃく)>  

                      TOPへ

 

 干物といえば沼津、という常識を私はいつの頃から見知っていたのだろう。

 子供の頃の家族の土産話だったのか・・・。

 長じて旅した伊豆の旅の時だったのか・・・。

  今では判然としないが、少なくとも物事の分別がつく時分は、もう既にそれと認識

 していたように思う。

 

 まず湯気の香りが違う。

 炭火で焼いた時の猛々と立ち昇る煙の中に、大洋の潮の香を嗅ぐ。

 箸を差し入れた時の、ふくよかな肉づきが違う。

 そして、その歯ごたえと舌触りと馥郁(ふくいく)とした味が他所のものとは格段に違う。

 全国の生産量の実に三割以上を占める「日本一の味」だというのもうなずける。

 

  総じて沼津のあの辺りは、湿度が低い。

 比較的雨も少なく、昼夜を問わず強い西風が吹く。

 そうした気候風土が絶妙に絡み合って、沼津は国土の中でも干物の製造に適した場所

 なのだそうだが、私はむしろ、あの場所が天に選ばれた場所であるように思えてなら

 ないのだ。

 湾としては日本一の深さをもつ駿河湾。

 北に目を転じれば日本一の富士山が屹然(きつぜん)とそびえる。

 その伏流水が忽然(こつぜん)と、そして滔々(とうとう)と溢れ流れる東洋一の湧水・柿田川湧水が

 東に控えている。

   (沼津で作られる干物の多くは、その湧水の水や駿河湾深層水で清められるのだそうだ。)

 そいした、天下唯一無二のものに囲まれ、育つ産物にまずいものがあろう筈がない。

 飯の肴に租借(そしゃく)し嚥下(えんか)するだびに、千本松界隈の風物が思い出されるのは、

 そういう理由なのだろうと考える。

 日本一には深い理由があるということだ。

 

 ← 前ページに戻る         次のページへ

沼津魚仲買商協同組合「沼津ひもの」を応援しています!沼津魚仲買商HPへ

 Copyright (C) 2007 沼津魚仲買商協同組合 最終更新日 : 2007/07/11