日本のただ一つの資源は、「ものづくり」であると考えます。世界の歴史を見ますと、「ものづくり」を忘れた国は必ず滅びています。
そういった私の考えをもとにして、只今より、現在、私共中小製造業が抱えている問題点、そして団地組合の問題点、更に、中小企業政策に関する、お願いなどに付きまして発言をさせて戴きます。
先ず、静岡県における我々製造業の現状と動向について話します。
静岡県は、全国でも有数の「ものづくり県」であります。16兆円を超える製造出荷額は全国第3位であり、東北6県の合計と、ほぼ同じ水準であります。
その中で、我々は夫々に懸命に技術革新を行い、企業体質の向上に努めております。しかし、我々中小製造業を取り巻く環境は、親企業からのコスト削減要請、海外への生産拠点シフトに伴う空洞化、原材料の高騰によるコスト高など、一段と厳しさを増しております。
東京の大田区や東大阪市のような「ものづくりの街」ですら、ここ数年の間に中小製造業が減少していると聞いております。
一言で言えば、我々は、「ものづくりがしにくい環境」の中にある、と言えるのではないでしょうか。
ここで現在の中小製造業が抱えている、主な問題点を2点挙げさせて戴きます。
先ず、第1点は、「中小製造業で働く労働者の不足」です。
少子化や、3Kなどにより、現在のわが国では、「ものづくり」に携わる、若者の数が、著しく減少してきております。
或る工業大学の教授から、工学部を卒業し、大学院の試験に受かった生徒が退学してフリーターになったという話を聞きました。若者の「ものづくり」離れもここ迄来たのかと、ショックを受けました。
また近年、熟練社員、いわゆる職人が減少していることも問題の一つです。
加えて、2007年の団塊の世代の退職を間近に控え、彼等の持っている技術の継承が、思うように進んでいないことも大きな問題点と言えます。特に、技術を教えようとする団塊世代の社員と、それを受ける若い社員との間で「ものづくり」に対する姿勢や認識に大きなズレがあり、これが技術継承の障害となっているようでもあります。
第2点目の問題点として、「空洞化によって“ものづくり”に伴う日本の生産構造が崩壊しつつある」、ことが挙げられます。
即ち、製造拠点の移転などの影響を受けた小規模零細企業が、廃業や倒産に追い込まれております。
戦前から今日まで、長年に亘って生産構造の底辺を支えてきた「小回りが効く」小規模企業が無くなることは、小ロットの部品加工を行なうところが無くなることになり、生産構造の崩壊に繋がるものとして、日本の「ものづくり」の将来に大きな影を投げ掛けていると言えます。
さて、次に団地組合の変遷と問題点について話したいと思います。
私共の団地における、問題点の一つに「団地組合周辺の立地環境の変化」があります。
私共の団地が完成した当時は、畑の真ん中にありましたが、38年経った今日では、周辺に住宅が出来き、騒音、振動に対する苦情に対応しなければならなくなりました。
一例として、数年前にプレスの震動が伝わるという苦情で、200万円掛けて防振装置を付けさせられるという事例が発生しております。
工業団地があることを承知で、家を建てたのに、何だ!と言いたくもなりますが、地域住民の苦情に対しては行政も弱く、我々はそれに従わざるを得なくなっています。
次に挙げられる団地組合の問題点は、「団地組合の求心力の低下」であります。
団地組合設立当時は、組合員企業間に“運命共同体”としての意識が強くありました。
しかし、世代交代、廃業や倒産による企業の交替などにより、従来からの共同事業だけでは、求心力を保つことが困難になっております。求心力の低下は、団地組合の衰退に繋がります。
そこで、求心力を強める為に新たな共同事業を構築する必要がありますが、その一つが、「研究開発拠点としての工業団地利用」であります。
即ち、組合員の体質強化を図る為に、組合がコーディネーターとなり、大学や、県の工業技術センターのような試験研究機関との結び付きを促進することにより、組合員企業の技術力の向上を図り、共同受注に繋げようとするものであります。
これが組合の求心力を高める為の、新たな事業の構築になるのではないかと考えます。
まだ夢の段階ですが、大学や試験研究機関などと連携して、団地内に産学官連携の研究センターを設置出来ればと考えております。
更に組合員企業だけでなく、「産学官連携の場」として、三島市内の中小製造業者にも開放することにより、地域の中小製造業者の研究開発精神を喚起し、地域発展に繋げることが出来れば、団地組合の存在価値が上がり、必然的に求心力が生まれて来るものと考えます。
以上に述べましたような、問題点を解決する為に私達中小製造業は、今後何をしなければならないか、そして我々が望む中小製造業者に対する施策は何かについて話させて戴きます。
中小製造業の逆境時代に対応して、先ず、私達が真っ先にやるべきことは「自力で永遠に存続する」という、自助努力です。
資本主義社会の原理として、弱者が滅びるのは、仕方がないことです。
他を頼りにせず、自社の努力で、企業体質を強化して、企業を存続させなければなりません。
しかしながら、大企業に比べ、中小企業では、その力に限界があります。
そこで、中小製造業への、これからの政策の策定に当りまして、次の4点について、ご検討を戴きますよう、政治、行政の皆さんにお願いをしたいと思います。
先ず、第1点目は、「ものづくり」に重要な役割を果たす熟練工、所謂“職人”を養成するために、国の技能検定取得者に対して奨励金を出すなど、技術向上のための奨励金、助成金、或いは補助金などの制度の創設をお願いしたいと思います。
加えて、工業高校や工科系大学など、「ものづくり」に関連する学校に進学する生徒に対して、奨学金制度の創設もお願いしたいと思います。
第2点目は、子供の頃から「ものづくり」に親しむことが出来る教育環境の整備です。若者に「ものづくり」の素晴らしさや楽しさを身に付ける場を設けてもらいたい、と考えます。
そのために、現在、授業の中で疎かにされている工作の時間を増やして欲しいと考えます。小刀を使えないようなひ弱な子供では困ります。また、ナイフは人を刺すものと勘違いしているような若者達では物騒でしょうがありません。
第3点目は、少量生産や細かな要望に対応してくれる「小回り」の効く小規模零細企業への手厚い保護政策をお願いしたいと思います。
息子が後を継がないから廃業するのではなく、息子が後を継ぎたくなるような企業にする為政策面での後押しをお願いしたいと思います。
品質の問題も含めて、小回りの効く小規模企業の存在が、今後の中国や他の国への対抗策となるのではないでしょうか。
第4点目は、「団地組合を、研究開発拠点の一つとして捉えた体制づくり」ということを視点に入れた何らかの政策をお願いしたいと思います。
結びとしまして、今後も、私共中小製造業は、知恵と汗を出し、努力を致して参りますが、政治、行政の皆様には、新しい時代の、「ものづくり」に即した中小製造業政策を、お願いする次第であります。
以上を持ちまして、製造業者としての発言を終わります。
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